市場成長率とは?計算方法や重要性・PPM分析についてわかりやすく解説

ビジネスにおいて新しい事業を立ち上げる際に、その市場の需要が伸びているのか縮小しているのかはとても大事な情報です。
市場成長率を求めることで、その事業の将来性がある程度予想できるようになります。
また、市場占有率を組み合わせてPPM分析に活用すれば、自社の事業がそれぞれどのような成長段階にあり、資金や人材をどの配分で振り分けるべきかまで判断可能です。
この記事では、市場成長率とは何かや計算方法、PPM分析について知りたい方にむけて市場成長率の意味と計算方法、重要性について解説しています。
市場成長率と市場占有率を使ってできるPPM分析についてもわかりやすく説明しているので、ぜひ参考にしてください。
市場成長率とは?
市場成長率とは、ある事業や商品の市場規模が前年と比べてどのくらい大きくなったかを割合で表したものです。市場成長率は以下の計算式で求められます。
「市場成長率=今年の市場規模÷前年の市場規模」
市場成長率は単独でも市場が大きくなっているのか反対に小さくなっているのかわかりますが、相対的市場シェアと組み合わせてPPM分析をすれば、より具体的に対象の事業の将来性が判断できます。
市場規模の調べ方
市場成長率を求めるために必要な市場規模は、特定の市場の年間売上から自分で調べることが可能です。ここでは、市場規模の具体的な調べ方について解説します。
①官公庁が公表するデータで調べる
市場規模の1つめの調べ方は、官公庁が独自に調査し公表しているデータを使う方法です。
たとえば、経済産業省の工業統計調査では産業、地域、品目別の統計データが出ているので、製造業、小売業、サービス産業などの市場規模が調べられます。(※2022年度からは工業統計調査ではなく経済構造実態調査に変更)
また、財務省の法人企業統計調査では製造業、非製造業など各業種別に資産、負債及び純資産、損益などの統計データが年次別と四半期別で調べられ、総務省の情報通信白書ではICTに関する業界の市場規模データを調べることが可能です。
政府から出ている統計データのほとんどは総合窓口であるe-Statで閲覧できます。探したいデータがどの省庁から出ているかわからなくても検索できるため、e-Statで探すのがおすすめです。
②業界団体が公表するデータで調べる
市場規模は業界団体が公表するデータで調べることも可能です。
データを公表している業界団体は、たとえば以下のような業界団体があります。
官公庁の公開しているデータは、調べる範囲が広いため公開までに時間が掛かるのです。
四半期よりも短い期間のデータやある商品のデータといったピンポイントの情報を見たいときや細心の情報が欲しいときは、業界団体の公表しているデータから調べましょう。
探している製品分野の団体が見つからなくても関連している団体を探すと、参考となるデータが見つかる可能性があります。
③調査会社のデータを購入する
調査会社のデータを購入することでも市場規模を調べることが可能です。
調査会社では、パートナー企業からのデータや各企業が公開している財務状況など投資家向けの情報、区官庁の統計などをもとに専門のレポートを作成しています。
無料トライアルを実施していたり、サンプル資料も載っているので確認してみてはいかがでしょうか。
官公庁や業界団体のデータを調べるのに時間がかかるので、すぐに結果を知りたい方や正確なデータが欲しい方は調査会社のデータを購入するのがおすすめです。
市場規模のデータが得られる調査会社には以下のような会社があります。
④調査会社に依頼して調べてもらう
調査会社に依頼して調べてもらうのも市場規模を調べる効果的な方法です。
市場調査を専門に行っている企業では、受託調査も行っており調べたい項目がピンポイントでわかります。
たとえば、業界動向調査では市場規模以外に参入企業・企業占有率などがわかるだけでなく、他にも販路状況調査や先行企業の動向調査も可能です。
無料で見られるデータや会員登録することで依頼前に受託調査に関する事例集が見られるので、ぜひ参考にしてみてください。
市場調査を専門に行っている企業には以下のような企業があります。
市場規模の算出方法
市場規模を知りたいと思っても具体的なデータが載っているケースは少ないですが、自分でも算出が可能です。
具体的な方法を解説していきますので、参考にしてください。
算出方法①企業から得られる情報を元に調べる
市場規模は企業から得られる情報を元に調べることができます。具体的な方法は以下の2つです。
- 年間総売上と市場占有率から調べる方法
- 市場に参加している企業の数と平均売上から調べる方法
それぞれ解説していきます。
1つめは、年間総売上と市場占有率から調べる方法です。
A社の市場規模が知りたい場合、年間総売上と市場占有率(シェア)の2つを使うことでわかります。具体的な計算式は以下のとおりです。
「A社の市場規模=A社の年間総売上÷A社のシェア」
たとえば、A社の年間総売上が180億円、市場占有率が30%の場合、A社の市場規模はおよそ600億円になります。
600億(A社の市場規模)=180億(A社の年間総売上)÷0.3(A社のシェア)
上記の計算式に当てはめれば、他の企業の市場占有率しかわからなくても市場規模が算出できます。
2つめは、市場に参加している企業の数と平均売上から調べる方法です。
市場に参加している企業の数と1社あたりの年間総売上の平均がわかっているのであれば次の計算式でだいたいの市場規模がもとめられます。
「市場参加企業数 × 年間総売上平均 = 市場規模」
たとえば、市場参加企業数が500社で、その業界の1社の平均売上金額が1億の場合、だいたいの市場規模は500億になります。
算出方法②消費者から得られる情報を元に調べる
特定の業界や商品の利用者数、顧客単価、利用頻度からもだいたいの市場規模が算出可能です。
たとえば、ある商品の利用者数が5000万人、顧客単価が200円、利用頻度が月2回(年24回)の場合、市場規模は2400億円になります。
5000万人(利用者数)×200円(顧客単価)×24回(利用頻度)=2400億円(市場規模)
算出方法③フェルミ推定から調べる
企業と消費者どちらから得られる情報でも市場規模が求められない場合、フェルミ推定を使うことで市場規模が調べられます。
フェルミ推定とは、「日本に交差点はいくつあるか」「世界中で今電話している人の数」など一見すると答えの求めようがない問題を論理的思考にのっとって概算することです。
フェルミ推定の正解は決まっていませんが現実離れした答えになっては意味がないので、人口:1.2億人、世帯:5,000万世帯、国土面積:約40万平方kmのような大まかなデータを元に考えます。
市場規模を調べる場合は、対象となる商品や施設などの利用者数、購入者数、人口、世帯数、1回あたりの購入金額、利用頻度などを使うといいでしょう。
特定の事業や商品でフェルミ推定に使えそうな数字が見つからないときは、似た商品や同じカテゴリーの数値を参考にしたり、実生活から得た情報を数字にして計算します。
フェルミ推定で出した市場規模は使う数字次第で変わるので、どの情報を選ぶかが重要です。また、導き出された結果も概算であることに注意しましょう。
市場成長率を求める重要性
市場成長率を求めると特定の市場の将来性がわかります。
たとえば、自社で新規事業を立ち上げようとしたとき市場成長率が90%であれば衰退し始めている市場なので立ち上げはやめようという判断が可能です。
さらに市場占有率と組み合わせることでPPM分析ができ、市場の将来性だけでなく資金の配分や現状、改善策まで考えることができます。
市場成長率を求めるとPPM分析によって論理的に特定の市場の方向性を定められ、自社の利益につながるのです。
PPM分析とは?
PPM分析とは、市場成長率を縦軸に市場占有率を横軸に当てはめ事業や製品を4つのポジションにわけることで、限られた資金を効果的に各事業に配分するためのフレームワークです。
PPM分析では縦軸と横軸で区切られた4つのスペースにそれぞれ以下のような名前がついています。
- 花形(Star)
- 金のなる木(Cash Cow)
- 問題児(Problem Child)
- 負け犬(Dog)
自社事業を4つのポジションに分ければ、特定の事業が現状どのような状態にあって今後利益拡大が見込めるのかや、資金をどの程度かける必要があるのか判断可能です。
PPM分析の4つのフェーズ
PPM分析には花形、金のなる木、問題児、負け犬の4つの段階があります。
花形
花形は市場占有率も市場成長率も高い段階です。
事業が成長途中で投資を続ければさらなる利益と売上が期待できる事業があてはまります。
今後も成長が見込まれる事業で、競争が激しい傾向にあるので他社に負けないために設備や宣伝への積極的な投資が必要です。
次の段階として「金のなる木」に移行し、安定して利益を得られることが課題になります。
金のなる木
金のなる木は市場占有率は高いが市場成長率は低い段階です。
市場占有率が高いのであまり投資しなくても利益や売上が得られますが、今後市場が伸びていくことはないので成長は期待できません。
金のなる木はすでに十分に利益を得られている状態なので、新しい投資をするのではなく発生した利益を他の事業に回す方がいいです。
現状をいかに維持するかが大切ですが、今後「負け犬」に移行する可能性があり撤退の時期を考え始める必要があります。
問題児
問題児は市場占有率が低く市場成長率の高い段階です。
立ち上げたばかりの事業や新しい製品が問題児にあてはまります。
事業でも製品でも売り始めてすぐは需要が高まっておらず、売上はないのに広告費はかかるため赤字になりやすいです。
赤字だからといって撤退するべきとの判断は早く、需要が高まり市場規模が大きくなれば将来は「金のなる木」や「花形」に移行する可能性があります。
将来利益を生むために積極的な投資が必要な段階です。
しかし、成長することなく「負け犬」に移行するパターンもあります。
負け犬
負け犬は市場占有率も市場成長率も低い段階です。
「金のなる木」や「問題児」から移行してくる事業があてはまります。
売上が落ちてきて、今後利益が拡大する見込みもないので撤退の時期を考えることが必要です。
投資は行わず、発生した利益を「問題児」や「花形」に回すことで企業にとっての利益につながります。
PPM分析のメリット
PPM分析のメリットは2つあります。
資金の最適な配分がわかる
1つめのメリットは、4つのフェーズに分けることで資金の最適な配分がわかることです。使える資金には限りがあるので、どこにどれくらい振り分けるかがポイントになります。
たとえば、縮小傾向にある事業に投資を続けてしまったり成長する事業に十分に資金を回せないと、得られたはずの利益を逃したりしなくていい損失をすることになりもったいないです。
PPM分析を使えば、これから伸びる事業が市場成長率と市場占有率の数値で表せるので、的確に資金配分の判断ができます。
経営戦略が立てやすい
2つめのメリットは、事業の将来性がわかるため経営戦略が立てやすいことです。4つのフェーズに分かれると将来の傾向と対策がわかります。
たとえば、赤字だから撤退するべきか考えていた事業が問題児に当てはまるのであれば、これから需要が高まるので積極的な投資をすることで利益が増えるでしょう。
黒字の事業でも金のなる木に当てはまる場合は、これ以上伸びる可能性は低いので投資は抑えて現状維持をめざし、撤退の時期を考えることが必要です。
単純に売上や利益だけで判断するのではなく、将来性を見て判断できるので効率よく複数の事業を伸ばすことにつながります。
PPM分析のデメリット
PPM分析のデメリットは2つあります。
新たな発見やアイデアにつながりにくい
1つめのデメリットは、PPM分析は今ある事業の分析に使われるため新しい発見やアイデアにつながりにくいことです。
市場占有率が低い場合、大きな利益は得られないと考えるのが普通ですが、今までにない技術を取り入れた商品が一気にシェアを拡大することもあります。
分析結果のみにとらわれない発想も必要です。
使う数字によって結果が変わる
2つめのデメリットは、どの数字を使うかによって結果が変わることです。
実際の事業や商品はひとつの分野にのみ属しているわけではありません。いくつもの分野に関わってると、どこを競合とするかどの分野で分析するかで結果が変わるのです。
PPM分析を活用し事業の将来性を判断するための正しい数字を見つけましょう。
まとめ
今回は市場成長率の計算方法や重要性、PPM分析について解説してきました。
この記事のポイントは以下のとおりです。
- 市場成長率とは、ある事業や商品の市場規模が前年と比べてどのくらい大きくなったかを割合で表したもの
- 市場規模は官公庁の公表するデータ、業界団体の公表するデータ、調査会社から購入したデータの利用か調査会社に依頼することで調べられる
- 市場規模の算出方法は、企業もしくは消費者から得られる情報を使う、フェルミ推定の3つ
- 市場成長率を求めると特定の市場の将来性がわかる
- PPM分析とは、市場成長率と市場占有率を使って事業の方向性や投資配分を知るための方法
- PPM分析のメリットは、資金の最適な配分がわかる、経営戦略が立てやすいこと。デメリットは、新たな発見やアイデアにつながりにくいことと使う数字によって結果が変わること
市場成長率やPPM分析を使う際には、ぜひこの記事を参考にしてみてください。
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